堺100年町家リノベーション【堺市】2020年

堺市の中心部、歴史ある建物や町並みが残る一画に、40代ご夫妻とお子様4人がお住まいになるため、築100年級の町家をリノベーションさせていただきました。古い建物のもつ風情を残しながら、お客様の暮らしに合わせて如何に住みやすく生まれ変わらせるかが命題でした。

近隣の方に伺うと100年を超す町家とのこと。元はこの一画に建っていた大きなお屋敷の一部で、そこが時代とともに部分部分で所有者が変わっていったため、切ったりつないだりを繰り返し、今の状態になったとのことでした。ですから、内部は良い仕事をしているのですが、外部は相当に傷んでいる状態でありました。また、そういう変遷から、隣地建物とつながっている部分もありますし、前面道路の狭さもあいまって、初めてお邪魔させてもらった際は、正直、どうしたものか？と考えこんでしまいました。

さらに、2018年の猛烈な台風の被害も加わって、このお家の持ち主であるお客様の親御様も解体を考えておられました。しかし、縁側など内部は趣のある素晴らしい仕事。（私も初めて内部に入れてもらった際、吸い込まれるように縁側に足が向きました）そこに、K様奥様の「今では再現できない古き良きものを残したい！」との強い思いと、弊社尾崎棟梁の「構造は大丈夫。中はええ建物やで！」との言葉が後押しになって、解体&建て替えではなくリノベーションに舵がきられました。

随分前にキッチンや水回り子供室などの大きな増築（2階建て）を施工されていました。そのため、一番気持ち良いはずの縁側もただのローカになり、各部屋も暗く通風も悪く、隣地にも接し、構造的にも良くない状態でした。そこで思い切ってその増築部分を解体し、まずは建築当時の状態に戻しました。

その上で、復活した気持ちの良い縁側を中心に、リビング・ダイニングを配置し、キッチンや水回りの位置を使いやすい位置に変更するとともに、各所に使いやすい収納を多く配置しました。昔ながらの畳の部屋がつながっていく間取りを、大きな広間空間に変え、そこに昔の風情を残しながら、構造や断熱の改善を考え合わせていくことは非常に難しいことです。地震に対してベターになるように壁も増やす必要がありますし、窓まわりの断熱などもあり、そこに予算の問題もありますから、本当に様々な条件を上手く折り合いをつけていくことが、リノベーションの一番の勘所なのだと思います。

このお家では「古いものを上手く取り込み新しい部分とどうつなげるか？」が、いつも以上に勝負所でした。古きものの風情や趣を愛するお客様の思いに応えるために、大工さんたちは、技と経験を活かし、本当に粘り強く頑張ってくれたと思います。おかげで、違和感なく納まり、お客様にも大変喜んでいただきました。

完成写真を眺めていると、実際「よく出来上がったな」と感慨深いものがあります。工事の難易度だけでなく、工事の様々な重機や材料の搬入、工事スペースの確保など、とても難しいことのオンパレードでした。

しかし、お客様はもちろん、ご近隣の皆様の温かいご協力もあって、難条件がどんどんと解決していき、無事完成を迎えました。【良い家】は【良い設計図面・良い大工職人さん・良い材料】だけではできないものです。お客様、そしてお家が建つということは、街やご近所様のご理解やご協力が欠かせません。

そんな当たり前のことを、改めて強く思い返させてくれたお仕事でした。このお家での、お客様ご家族の楽しく幸せな暮らしがずっと続くこと、また昔と同じように、これからも街の風景として何十年と地域の歴史に刻まれていくことに思いを馳せ、ご紹介を終わります。K様、幸せな仕事を誠にありがとうございました。これからも何卒よろしくお願い申し上げます。

最後に、こちらは堺市の伝統的建築物の補助金も頂戴した建物です。そのための制約も多かったですが、おかげで堺市の町並み、堺市の皆様にもご協力できたことは大変嬉しいことでありました。しかし、そのための役所への申請だけでなく様々な所への折衝は相当なものがありました。また、本文にもあったように工事にあたってご近隣へのお心遣い、工事車両・工事資材の置き場所のみならず、工事のための近隣空き地の確保など、そこにはお客様のお母様の多大なるご協力がありました。お母様がおられなければ着工さえできていなかったと思います。大きな感謝をこめて書き添えさせていただきます。